ビタミンB6は、アミノ酸(タンパク質)の代謝や脳・神経の働きに関わっています。
筋肉の維持や神経伝達物質の合成にも関わるため、私たちの体にとって非常に重要な役割を担っています
では、なぜビタミンB6は筋肉や脳・神経の健康維持に重要なのでしょうか。
この記事では、ビタミンB6の作用機序や体内での働き、神経伝達物質との関係、多く含まれる食品、医薬品としての使われ方について、薬剤師の視点からわかりやすく解説します。
①ビタミンB6とは?体内での働きをわかりやすく解説
ビタミンB6は、ビタミンB群の一つで、アミノ酸(タンパク質)の代謝に欠かせない栄養素です。

体内では、PLP(ピリドキサールリン酸)という補酵素に変換され、多くの酵素反応を助けています。

PLPは100種類以上の酵素反応に関わるとされ、特にアミノ酸の分解や合成、神経伝達物質の合成などに重要な役割を果たしています。
私たちの体を構成する細胞や組織の多くは、アミノ酸(タンパク質)が材料として作られています。
例えば、次のようなものもタンパク質(またはアミノ酸)を材料として作られています。
- 筋肉
- 皮膚
- 髪
- 爪
- 酵素
- ホルモン
- 神経伝達物質
しかし、食事から摂取したタンパク質は、そのまま体で利用されるわけではありません。
一度アミノ酸へ分解され、その後、必要に応じて筋肉や皮膚、酵素、ホルモンなどのタンパク質へと組み立て直されます。
この一連の反応を助けているのが、ビタミンB6です。
そのため、ビタミンB6は筋肉だけでなく、皮膚や脳、神経など、全身の健康を支える重要なビタミンといえます。
②ビタミンB6はなぜ筋肉・脳・肌によいの?
ここからがビタミンB6の一番面白いところです。
ビタミンB6は「タンパク質の代謝を助けるビタミン」とよく紹介されますが、それだけではありません。
実は筋肉や皮膚だけでなく、神経伝達物質の合成にも関わることで、脳や神経の正常な働きも支えています。
では、ビタミンB6はどのような仕組みで体のさまざまな場所を支えているのでしょうか。
アミノ酸の代謝を助け、筋肉の維持や修復を支える
筋肉は主にタンパク質からできています。
食事で摂取したタンパク質は、そのまま筋肉になるわけではなく、一度アミノ酸へ分解され、必要に応じて再び筋肉や酵素、ホルモンなどの材料として利用されます。
ビタミンB6は、このアミノ酸の分解や合成を助ける補酵素として働いています。
そのため、筋肉の維持や運動後の修復だけでなく、酵素やホルモンなど体内のさまざまなタンパク質を作るうえでも重要な栄養素です。

神経伝達物質の合成を助け、脳や神経の正常な働きを支える
ビタミンB6は、神経伝達物質を作る際にも欠かせない補酵素です。
・セロトニン(精神の安定)
・ドーパミン(意欲・やる気)
・GABA(興奮を抑える)
これらは脳や神経で情報を伝える役割を持ち、気分や意欲、睡眠、集中力など、私たちのさまざまな生命活動に関わっています。
ビタミンB6はこれらの神経伝達物質を直接増やす薬ではありませんが、正常に合成するために欠かせない栄養素です。
特に、神経の興奮を抑える働きをもつGABAは、ビタミンB6が補酵素として働くことで合成されます。
そのため、ビタミンB6が不足したり、その働きが阻害されたりすると、GABAが十分に作られず、脳が興奮しやすい状態となり、けいれんを引き起こすことがあります。
身近な例では、銀杏(ぎんなん)の食べ過ぎによる銀杏中毒があります。銀杏に含まれるギンコトキシン(4’-O-メチルピリドキシン)はビタミンB6の働きを阻害するため、GABAの合成が低下し、けいれんの原因となることがあります。
通常量の銀杏を食べて問題になることはほとんどありませんが、一度に大量に摂取すると発症することがあるため注意が必要です。
また、生まれつきビタミンB6(PLP)を十分に利用できないビタミンB6依存性てんかんでも、GABAの合成が障害され、けいれんが起こることが知られています。
皮膚の健康を維持する
ビタミンB6は、皮膚を構成するタンパク質の合成や代謝を助けることで、皮膚細胞の正常な生まれ変わり(ターンオーバー)を支えています。
そのため、不足すると皮膚や粘膜の細胞が正常に生まれ変わりにくくなり、皮膚炎や口角炎、口内炎などの症状が現れやすくなります。
また、ビタミンB6は皮脂分泌の調節にも関与していることから、ニキビや脂漏性皮膚炎の治療で補助的に使用されることもあります。
ただし、ビタミンB6を多く摂取したからといって、誰でも肌がきれいになるわけではありません。
不足している人では症状の改善が期待できますが、健康な肌を維持するためには、ビタミンB6だけに頼るのではなく、栄養バランスの良い食事と規則正しい生活習慣を心掛けることが大切です。
③ビタミンB6を効率よく摂取するには?
ビタミンB6を多く含む食品
ビタミンB6は、肉や魚などの動物性食品だけでなく、豆類や野菜、果物にも含まれています。
代表的な食品には次のようなものがあります。
可食部100gあたりのおよその含有量を示していますが、食品の状態や調理法によって多少前後します。
- にんにく (1.53mg)
- 牛レバー (0.89mg)
- まぐろ(赤身) (0.85mg)
- かつお (0.76mg)
- 鶏むね肉(皮なし) (0.64mg)
- 鶏ささみ (0.64mg)
- 豚ヒレ肉 (0.45mg)
- バナナ (0.38mg)
- まいわし (0.37mg)
- さんま (0.33mg)
- じゃがいも (0.30mg)
- 納豆 (0,24mg)
- アボカド (0.23mg)
- ブロッコリー (0.22mg)
- 玄米(炊飯) (0.21mg)
※参考文献:文部科学省『日本食品標準成分表(八訂)増補2023年』

ビタミンB6は水溶性ビタミンですが、比較的熱には強いとされています。
一方で、水に溶け出しやすい性質があるため、野菜をゆでる場合は煮汁ごと食べられるスープや味噌汁などにすると効率よく摂取できます。
また、ビタミンB6はタンパク質の代謝を助けるビタミンであるため、タンパク質を多く摂取する人ほど必要量も増えることが知られています。
筋力トレーニングをしている方や高タンパク食を意識している方は、肉や魚だけでなく、ビタミンB6もあわせて摂取することが大切です。
ビタミンB6欠乏症
ビタミンB6が不足すると、アミノ酸の代謝や神経伝達物質の合成が十分に行われにくくなります。
その結果、次のような症状が現れることがあります。
- 口角炎
- 舌炎
- 口内炎
- 脂漏性皮膚炎
- 手足のしびれ
- 貧血
- けいれん(重度の欠乏時)
ビタミンB6は通常の食生活で不足することはあまりありませんが、このような習慣がある人は不足することがあります。
- 偏食が多い人
- ダイエット中の人
- 飲酒量が多い人
- 高齢者
また、ビタミンB6は脳内で神経伝達物質を作る際にも必要なため、不足すると神経機能にも影響を及ぼすことがあります。
ビタミンB6過剰症
ビタミンB6は水溶性ビタミンであり、通常の食事量で過剰症が問題になることはほとんどありません。
しかし、サプリメントなどで長期間にわたり大量摂取すると、感覚神経障害が起こることがあります。
代表的な症状には次のようなものがあります。
- 手足のしびれ
- 感覚が鈍くなる
- 歩きにくい
- ふらつき
この神経障害は大量摂取を中止することで改善することが多いものの、重症では回復まで時間がかかる場合もあります。
「ビタミンだから安全」と自己判断で大量に摂取するのではなく、サプリメントを利用する際は推奨量を守ることが大切です。
ビタミンB6は1日にどれくらい摂ればよい?
日本人の食事摂取基準(2025年版)では、ビタミンB6の推奨量は年齢や性別によって定められています。

日本人全体としてビタミンB6が大きく不足しているわけではありません。
しかし、偏食や過度なダイエット、飲酒習慣などにより不足する人は少なくありません。また、タンパク質の摂取量が多い人では必要量も増えるため、日頃から肉や魚、豆類などとあわせてビタミンB6を含む食品を意識して摂取することが大切です。
④医薬品としてのビタミンB6
ビタミンB6は食品やサプリメントだけでなく、医療用医薬品としても使用されています。
単に「ビタミンを補う薬」というだけではなく、神経障害の予防や治療、薬の副作用対策など、さまざまな場面で活用されています。
ビタミンB6製剤にはどんな種類がある?
医療現場で使用されるビタミンB6製剤には、主に次のようなものがあります。
- ピリドキシン塩酸塩
- ピリドキサールリン酸(PLP)
- ビタミンB群配合剤
- 一般用医薬品(OTC医薬品)
ピリドキシンは体内で活性型であるPLP(ピリドキサールリン酸)へ変換され、アミノ酸代謝や神経伝達物質の合成を助ける補酵素として働きます。
また、ビタミンB6は単剤だけでなく、ビタミンB群配合剤や総合ビタミン剤にも含まれています。一般用医薬品(OTC医薬品)では、口内炎や肌荒れ、疲労時のビタミン補給を目的とした製品にも広く配合されています。
実際にはどんな病気で処方される?
ビタミンB6製剤は、ビタミンB6欠乏症だけでなく、次のような疾患や病態に対して処方されます。
- ビタミンB6欠乏症
- 妊娠悪阻(つわり)
- 末梢神経炎
- イソニアジド服用時のビタミンB6欠乏予防
- 放射線治療に伴う悪心・嘔吐
- 一部の抗悪性腫瘍薬による副作用の補助療法
このように、ビタミンB6は単なる栄養補給ではなく、病気の治療や薬の副作用対策としても利用されています。
イソニアジドでビタミンB6が処方される理由
結核の治療薬であるイソニアジド(INH)を服用すると、ビタミンB6の働きが低下することがあります。
これは、イソニアジドがビタミンB6と結合し、活性型であるPLPの量を減少させるためです。
その結果、次のような副作用が起こる可能性があります。
- 手足のしびれ(末梢神経障害)
- けいれん
そのため、イソニアジドを長期間服用する患者さんでは、これらの副作用を予防する目的でビタミンB6が併用されることがあります。
注射薬はどんな時に使われる?
ビタミンB6には注射薬もあり、病院では内服が難しい患者さんや、速やかな補充が必要な場合に使用されます。
例えば、次のようなケースです。
- ビタミンB6欠乏症
- 高カロリー輸液(TPN)による栄養管理
- ビタミンB6依存性てんかん
- 重症の妊娠悪阻などで内服が困難な場合
特に高カロリー輸液(TPN)を行う患者さんでは、ビタミンB6を含むビタミン製剤を点滴へ混合して投与することが一般的です。
服用時の注意点(テオフィリン・レボドパなど)
ビタミンB6は比較的安全性の高いビタミンですが、一部の薬剤との相互作用には注意が必要です。
- テオフィリン
気管支喘息やCOPDなどで使用されるテオフィリンを長期間服用している患者さんでは、ビタミンB6代謝への影響が指摘されています。
ビタミンB6は神経伝達物質であるGABAの合成にも関与しているため、ビタミンB6代謝の低下は、けいれんリスクとの関連が議論されています。
ただし、通常の治療で問題となることは多くなく、必要に応じて医師がビタミンB6を併用することがあります。
- レボドパ
パーキンソン病治療薬であるレボドパ単剤では、ビタミンB6によってレボドパの末梢代謝が促進され、薬の効果が弱くなることがあります。
しかし現在主流となっているこれらの配合剤ではほとんど問題になりません。
- レボドパ・カルビドパ配合剤
- レボドパ・ベンセラジド配合剤
そのため、現在の日常診療で過度に心配する必要はありませんが、薬剤師として知っておきたい相互作用の一つです。
⑤まとめ
ビタミンB6は、水溶性ビタミンに分類されるビタミンB群の一つで、アミノ酸(タンパク質)の代謝や神経伝達物質の合成に欠かせない栄養素です。
そのため、筋肉や皮膚、脳や神経など、全身の健康維持を支える重要な役割を担っています。
不足すると、口内炎や皮膚炎、末梢神経障害などの症状が現れることがあるため、日頃からビタミンB6を含む食品をバランスよく摂取することが大切です。
また、医療現場では欠乏症だけでなく、妊娠悪阻やイソニアジドによる副作用予防など、さまざまな場面で活用されています。
ビタミンB6は、筋肉・脳・肌の健康を陰で支える「アミノ酸代謝の立役者」です。毎日の食事を基本に、健康づくりへ役立てていきましょう。































